なぜオーディオメーカーが集音器市場に参入するのか

オーディオメーカーの参入

かつてはハイレゾ音源や重低音再生といった“音楽再生の理想”を追求していたオーディオメーカーたちが、ここ数年、続々と「集音器」や「聞こえサポート製品」に乗り出しています。
なぜ今、音響機器のプロフェッショナルたちが“聴こえ”の世界に注目しているのでしょうか?その背景と技術的な強みを、2つの視点から読み解いていきます。

目次

高齢化社会と“聞こえ”のニーズ拡大

補聴器未満の“軽度難聴層”がターゲットに

日本では65歳以上の高齢者人口が急増しており、いわゆる「軽度難聴」に該当する人の数も急拡大しています。
補聴器を装着するほどではないが、テレビの音量が大きくなったり、会話の聞き返しが増えたりと、生活の中で「聞こえづらさ」を感じる人は年々増加中です。

これまではその層を取りこぼしていた市場に、オーディオメーカーが注目しはじめています。
価格や心理的ハードルの高い「医療機器としての補聴器」ではなく、日常の延長にある「使いやすい集音器」であれば、導入のハードルが大きく下がるからです。

補聴器に対する“抵抗感”の受け皿として

「見た目がいかにも高齢者向け」「使い方が複雑」「価格が高い」
――こうした理由から、補聴器に抵抗を感じている人は非常に多く、実際の補聴器普及率は先進国の中でも低い水準にとどまっています。

オーディオメーカーが開発する集音器は、その抵抗感を和らげるデザインや価格、操作性を備えており、まさにこの“補聴器予備軍”にフィットした選択肢となっているのです。

音響技術の応用とブランドの信頼

オーディオ機器のノウハウがそのまま活かせる

オーディオメーカーが長年培ってきたマイク、アンプ、ドライバー、ノイズ制御、DSP(デジタル信号処理)といった技術は、そのまま集音器の品質に直結します。
特に「人の声を明瞭に届ける」ための調音技術は、まさに補聴・集音の本質と一致するのです。

たとえば、BA(バランスド・アーマチュア)型のドライバーは補聴器にも採用されており、高音域の明瞭性や雑音を抑えた聞こえを実現します。
これらを“音楽再生”から“音声認識”に応用することで、違和感のない聞き取り支援が可能となっています。

音響ブランドならではの安心感

オーディオメーカーは長年にわたり「音へのこだわり」「プロ仕様の音質」を追求してきたブランドとして、ユーザーからの信頼も厚い存在です。

「家電量販店で名前をよく見る安心のブランド」「見た目がスマートで補聴器っぽくない」
こうした声も、購入時の心理的な後押しとなり得ます。

パイオニアの「フェミミ」シリーズや、ヤマハが展開する“聞こえサポート機能付きイヤホン”などはその代表格。
今後も、オーディオブランドによる“生活に溶け込む集音器”の開発はさらに加速すると見られています。

補聴器とオーディオの境界は曖昧に

これまで「医療機器」と「娯楽機器」として分かれていた補聴器とオーディオ製品ですが、現在ではその境界が少しずつ溶け始めています。

Bluetooth対応、アプリでの音質調整、スタイリッシュなデザイン、そして音響技術に裏打ちされた“聞き取りやすさ”――
これらすべてが、オーディオメーカーによる新しい集音器の形を示しているのです。

「聞こえに悩む前に、気軽に手に取れる選択肢」
それが、今オーディオメーカーが目指す“聞こえ”の未来なのかもしれません。

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