音のプロたちが“聞こえ”市場に参入した理由

補聴器・集音器を手がけるオーディオメーカー事例集

「聞こえにくい」という課題は、高齢化社会の進行とともに深刻化しています。
その中で、意外にも“音楽を楽しむ”ための製品を作っていたオーディオメーカーたちが、相次いで“聞こえを補う”製品分野に参入しています。

本記事では、集音器・補聴器市場に実際に関わっている、または過去に関与したオーディオメーカーの事例を紹介し、それぞれの狙いや特長について解説します。

目次

国内のオーディオメーカーによる注目事例

パイオニア – 早期から集音器市場に参入した先駆者

日本の老舗オーディオメーカー「パイオニア」は、2000年代初頭から「フェミミ(Femimi)」というブランドで家庭用集音器を展開してきました。
「補聴器に抵抗がある方へ」というキャッチコピーとともに、高齢者層をメインターゲットにしたシリーズは一時期大ヒットを記録。

特に「テレビの音を聞き取りやすくする」ことに特化したモデルなど、使用シーンを想定した製品作りが特長でした。

現在は“福耳”シリーズなどの後継ブランドにバトンタッチする形で製品展開が続いていますが、パイオニアが“聞こえ”の世界にいち早く踏み出した事実は、業界に大きな影響を与えました。

ヤマハ – 聴覚サポートとデザインの融合

ピアノやAV機器など多角的に展開する「ヤマハ」も、近年“聞こえサポート”を意識した製品を開発しています。

たとえば、ワイヤレスイヤホンに「ヒアスルー」機能(外音取り込み)を搭載したモデルや、独自の音響調整技術「リスニングケア」を活用した製品などは、補聴器未満の聞こえ支援ツールとして注目されています。

また、“補聴器っぽくない”洗練された外観も、ユーザーの心理的抵抗を下げる設計として評価されています。

オーディオテクニカ – マイク技術の転用に強み

プロ用マイクやヘッドホンで知られる「オーディオテクニカ」は、近年、マイク技術を応用した集音・通話サポート製品を展開しています。

会話支援向けのピンマイクや、遠くの音をクリアに拾う「指向性マイク」などは、高齢者施設や家庭内での聞き取り補助にも応用可能です。

補聴器や集音器そのものではないものの、「音を届ける」という技術資産を活かした“聞こえの周辺機器”としての立ち位置が際立っています。

海外ブランドの動きと新しい潮流

ソニー – 音響とウェアラブルの融合領域へ

世界的オーディオブランド「ソニー」も、近年は“聞こえの快適さ”に焦点を当てた製品を増やしています。
特に注目されたのが、周囲の音を聞き取りやすくする「オープンイヤー型イヤホン」や、骨伝導・軟骨伝導技術を応用したリスニング機器です。

“補聴器”とは銘打たないものの、聞こえに不安を持つ人にも自然に使ってもらえるデザインと機能性が好評です。
音のプロフェッショナルならではの調音技術が、音楽と生活音のバランスを最適に調整しています。

Sennheiser(ゼンハイザー) – 高齢者向け製品の明確な打ち出し

ドイツの名門音響ブランド「Sennheiser(ゼンハイザー)」は、テレビの音声が聞き取りやすくなる“ワイヤレスリスニングシステム”を展開しています。
特に「高齢者向けテレビリスニングシステム」として設計された製品は、補聴器の代わりとしても注目されています。

また、聴覚の衰えを考慮した音域補正機能や、超シンプルな操作設計など、「シニア向け家電」としての視点でも完成度が高い製品群です。

Bose – “ながら聞き”技術の延長線にある聞こえ支援

Bose(ボーズ)も、“OpenAudio”技術を用いた“ながら聞き”デバイスを展開しており、その中には「周囲の音と音楽を自然にミックスする」ようなプロダクトも含まれています。

高齢者向けというよりは、全世代に対応した“聞こえ方の自由化”を目指す製品戦略であり、将来的な聞こえ補助の延長線にあるアプローチとして非常に興味深い動きです。

聞こえの選択肢が広がる時代へ


かつて「補聴器」といえば医療機器一択だった時代は終わりつつあります。
今やオーディオメーカーをはじめ、音響のプロたちがさまざまな角度から“聞こえ”にアプローチするようになりました。

軽度難聴者や高齢者にとって、補聴器以外の「選択肢」が増えることは、心理的にも機能的にも大きなメリットです。
そしてその裏側には、長年にわたり“音の質”を追い続けてきた企業たちの技術と情熱があるのです。

次回は、こうした製品をより自然に使えるようにするための「デザイン性」や「ユーザー体験(UX)」に焦点を当てて解説します。

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